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古仏 冬の古寺は静かである。枯葉のなかのスズメの足音が・・・

 冬の古寺は静かである。枯葉のなかのスズメの足音が、シーンとした静寂にカサコソとゆれる。そのほのぐらい本堂に、長い人間の歴史を見守ってきた古仏のほほえみが、静かにうかんでいる。すいこまれるようなほほえみである。永遠のなかに没入してしまいそうなほほえみである。

 生きていくことは容易でない。容易でないけれど、真冬のほのかな日射しをわが身にうけて、やっぱり生きていることのありがたさが身にしみる。

 生きている日々は尊くて、その一日一日は何にもかえられない貴重なものなのである。けれども、その日々にとらわれて、自分だけが生きること、自分が生きている間のことだけで、頭がいっぱいになってしまったら、知らぬ間に事の考えが小さくなり、またもや悩みの起伏にほんろうされる。

 古仏のほほえみは、他を思うほほえみである。自分をこえたほほえみである。そのほほえみが、長い年月、世の人に心のやわらぎとはげましを与えてきた。この年のこの冬の一日、古寺に坐して静かに古仏を仰ぎみてみたい。

 松下幸之助 (続 道をひらくより)

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